リースリング

RIESLING

リースリングは、高貴品種の一つとも言われ、香り高く酸味の豊かな白ブドウ品種として知られています。

ドイツのモーゼル渓谷の急斜面やアルザスの丘陵地帯、オーストリアのヴァッハウ渓谷など、冷涼な気候の産地で素晴らしいワインを生み出しています。

フレッシュな柑橘系の香りから熟成によって現れるペトロール香まで、栽培環境や熟成度合いによって様々な香りを持ち、世界中の方を魅了し続けている品種です。

また、辛口から極甘口まで、様々なスタイルのワインを生み出せる稀有な品種でもあります。

かつてドイツで造られていた甘味添加ワインの時代遅れなイメージと結び付けられていた時代もありましたが、近年は、フランスやドイツなどの伝統的な産地のみならず、オーストラリアやニュージーランドなどでも高品質なリースリングが造られ、その魅力は世界中で再評価されています。

本記事では、リースリングの起源から特徴、主要産地など様々な観点から解説していきます。

リースリングとは

リースリングは、豊かな酸味と華やかな香りをもつ白ブドウ品種です。

​​寒さに強い品種で、萌芽が遅く春の霜を避けることができます。

冷涼から温和な気候を好み、耐病性も良好な品種としても知られています。

完全に熟すには、日光を十分に浴びることができる水捌けの良い場所と、長い生育期間が必要ですが、これらが整えば、比較的高い収量で非常に高品質のブドウを生産できます。

リースリングの起源と発展

白ワインを造るブドウ品種の中でも一際その存在感を放つリースリングの歴史は中世にまで遡ります。

本章では、現在では世界中で高品質なワインを生み出している、リースリングの起源と発展について紐解いていきましょう。

原産地はドイツのライン川流域

リースリングは、15世紀にはドイツの文献に登場しています。

その起源は、ドイツのライン川流域とされていますが実際のところまだはっきりとした文献や資料が存在するわけではありません。

近年のDNA鑑定により、片親がグーエ・ブランであることが判明し、もう片方の親は野生品種とトラミナーの交配種と推測されています。

近代以降のリースリングの発展と拡大

リースリングの歴史における重要な転換点は、18世紀頃から始まった貴腐の利用です。

これを契機に高品質なデザートワインの生産が始まり、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ドイツワインは黄金期を迎えます。

20世紀以降、リースリングの生産地は世界に広がり、特にアメリカのワシントン州やニューヨーク州、オーストラリアなどの冷涼な地域で栽培されるようになりました。

現在、世界のリースリング栽培面積の約6割をドイツが占めていますが、気候変動の影響で栽培地域が北上する傾向にあります。

リースリングからは、辛口から甘口まで多様なスタイルのワインが生産され、その品質の高さは国際的に高い評価を受けることとなりました。

リースリングワインの特徴

リースリングは、テロワールや造り方の影響を強く受けることから、同じ品種でも様々な個性を持つワインとなり、その多様性から、世界中の方を魅了し続けています。

本章では、様々な顔を見せるリースリングの特徴について詳しく見ていきましょう。

極甘口から辛口まで幅広いスタイル

リースリングは、辛口から甘口まで、様々なスタイルのワインを生み出すことができます。

この品種が持つ高い酸味は、果実味や、甘口ワインの残糖とよくバランスします。

また、アロマティック品種とも呼ばれるほど香りが豊かであり、辛口では柑橘系やリンゴの爽やかな香り、甘口では蜂蜜やアプリコットの芳醇な香りが感じられます。

リースリングは、収穫期にも酸が落ちにくいことから、収穫時期を変えることで、様々な糖度のブドウを得ることができます。

ドイツやオーストリアでは、収穫時の糖度によって呼び分けがされており、遅摘みのシュペートレーゼやアウスレーゼ、さらには貴腐菌の付いた選別収穫によるトロッケンベーレンアウスレーゼなど、多彩なスタイルのワインが造られています。

特に甘口の場合では、しっかりとした酸味により、べたつかない上品な甘さを楽しむことができるでしょう。

なお、いずれの場合でも、リースリング自身が持つ豊かなお花や柑橘の香りを大切に活かすため、樽はほとんど使われず、ステンレススチールタンクなどの不活性な容器で醸造されることが多いです。

長期熟成のポテンシャル

リースリングという品種は、長期熟成のポテンシャルがあるのも特徴です。

驚くべき長期熟成能力を持ち、20年、30年、時には50年以上の熟成に耐えうる品種です。

豊富な酸が熟成を支え、若いうちのフレッシュな果実の香りは、熟成とともにハチミツやトーストの複雑な風味へと変化していきます。

また、熟成により石油のような特徴的なペトロール香が現れることがあります。

このように、適切な環境で熟成されたワインは、若いときには想像もできないような複雑さと深みを持つようになるでしょう。

産地による味わいの違い

リースリングは、栽培される産地によっても全く異なる顔を見せます。

冷涼なドイツのモーゼルでは、太陽光を最大限得て熟すことができるように、ブドウは、川沿いの南向き急斜面で栽培されます。

モーゼルのリースリングは、他の産地のものよりも色が薄く、ボディが軽く、アルコール度数が低く、酸度が高く、花や緑の果実の香りが際立つ特徴があります。

酸味と風味の強さのバランスが取れているため、これらのワインは長期の瓶熟成が可能です。

消費者の好みを反映し、近年では、より辛口のワインも生産されるようになってきていますが、モーゼルでは、伝統的にカビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼといったカテゴリーの甘口ワインの生産で高い評価を得ています。

一方、より温暖なドイツ・ラインガウでは、完熟した果実味とボディの厚みが特徴です。

国を変え、フランスのアルザス地方では、太陽をしっかり浴びることで果皮が厚くなり、力強い味わいとなります。

このエリアの特徴である花崗岩や片麻岩などの多様な土壌が、ワインに複雑さを与えています。

また、オーストラリアのクレア・ヴァレーでは、ライムを思わせる特徴的な香りが生まれ、ニュージーランドでは冷涼な気候を活かした爽やかな酸味が特徴となっています。

このように、産地によって異なる味わいを見せるのも、リースリングの特徴の1つです。

リースリングの主要産地

リースリングは、ドイツが世界の栽培面積の約40%を占めていますが、ほかにも世界中の冷涼な気候で栽培されており、異なる特徴を持つと前述しました。

本章では、特に高品質なワインを生み出すリースリングの主要産地として、ドイツ、アルザス、オーストリアについて詳しく解説していきます。

ドイツ

ドイツは世界最大のリースリング生産国で、2万4千ヘクタール以上の栽培面積を誇ります。

主要産地のモーゼル、ラインガウ、ファルツでは、それぞれ異なる個性のワインが生まれます。

ドイツでもっとも有名なワイン産地の一つであるモーゼルでは、リースリングから最高級のワインが造られています。

その冷涼な気候からライトボディとなり、非常に高い酸味とバランスを取るために、半辛口や半甘口にすることも多いです。

一方、暖かい地方ではよりしっかりしたワインとなる傾向があります。

山によって北風から守られるとともに、南向き斜面や東向き斜面のブドウ畑で最大限の太陽を浴びることのできるラインガウやファルツでは、よりボディがあり、果実の熟した特徴のある辛口ワインが造られます。

代表的な生産者には、モーゼルのドクター・ルーゼン、ラインガウのロバート・ヴァイル、ファルツのドクターブルックリン・ウォルフなどがあります。

フランス・アルザス

アルザスは、東側のヴォージュ山脈により雨風から守られた乾燥した地域で、昼夜の寒暖差が大きいため、ブドウは酸を残したまま十分に熟すことができます。

また、乾燥しているということは、病圧が少ないことを意味し、有機栽培も非常に盛んです。

この地域で造られるワインのスタイルは、典型的には辛口で、ミディアムボディからフルボディとなり、レモンやグレープフルーツといった柑橘類と桃の風味、さらには濡れた石のニュアンスを持っています。

そして、アルザスでは、51のぶどう畑がグラン・クリュとして認められており、高品質なワインが造られています。

また、乾燥した秋の長い生育期間を活かした、ヴァンダンジュ・タルディブやセレクシオン・ドゥ・グラン・ノーブルと呼ばれる、遅摘みブドウや貴腐ぶどうを使ったこの地方特有のカテゴリーを楽しむこともできます。

代表的な生産者には、トリンバック、マルセル・ダイス、ドメーヌ・ヴァインバック、アルベール・ボクスレ、ドメーヌ・ツィント・フンブレヒトなどがあり、それぞれが独自のスタイルで高品質なワインを生産しています。

オーストラリア

オーストラリアもリースリングの主要産地です。

特に、サウス・オーストラリア州の冷涼な地域が有名で、強い日差しと夜の冷え込みによる昼夜の寒暖差が大きいクレア・ヴァレーや、海抜600メートル以上にもなるブドウ畑の標高が冷涼効果をもたらすイーデン・ヴァレーで高品質なワインが造られています。

これらの地域で造られているワインは、甘口の遅摘みスタイルもありますが、大半が強い酸味と、ライムやグレープフルーツなどの柑橘類や鋼鉄のような風味を持つ辛口となります。

高品質なワインは、瓶内で長期間熟成させるとはちみつやトーストのような特徴が生まれ、その複雑性を楽しむことができます。

代表的な生産者には、グロセット、パイクス、ジム・バリーなどがあり、特にグロセットのポーリッシュ・ヒル・リースリングは世界的に高い評価を得ています。

その他の注目産地

ドイツ、アルザス、オーストラリア以外にもリースリングで有名な産地はいくつかあります。

アメリカでは、冷涼なワシントン州とニューヨーク州フィンガーレイクスが有名です。

ワシントン州のシャトー・サン・ミッシェルは、ドイツの醸造家エルンスト・ローゼンと協力して「エロイカ」という高評価のリースリングを生産しています。

また、フィンガーレイクスではドクター・コンスタンティン・フランクやハーマン・J・ウィーマーが注目を集めています。

オーストリアでは、特徴的なドナウ川沿いの段々畑のあるヴァッハウやカンプタールが主要産地で、ミディアムからフルボディで、寒暖差の大きさがもたらす熟した桃のような風味を持つ、フルボディの辛口ワインがつくられています。

代表的な生産者には、ニコライホーフ、F.X.ピヒラー、ヴァイングート・クネール、ヴァイングート・ヒルシュなどがあり、高品質なワインを造り出しています。

リースリングから造られるワインは、栽培環境の特性を反映したスタイルになりやすいため、これらの産地では主要な産地とは異なる個性的なワインが生まれ、世界のリースリング好きから注目を集めています。

気候変動の影響で、従来のリースリング産地では栽培が難しくなる可能性もあり、オーストラリアやアメリカなどの新興産地の重要性は今後さらに高まっていくでしょう。

リースリングワインの選び方

リースリングは辛口から極甘口まで、実に多様なスタイルのワインを生み出すことができる品種で、産地によっても味わいが大きく異なる品種です。

そのため、様々な銘柄から自分の好みに合ったリースリングを見つけるという楽しみ方があります。

初めての方でも、いくつかのポイントを押さえることで、より楽しく選ぶことができるでしょう。

本章では、リースリングワインの選び方として2つのポイントをご紹介します。

スタイルで選ぶ

リースリングの大きな特徴は、豊かな酸味とアロマティックな香りを持ちながら、様々なスタイルのワインを生み出せることです。

辛口タイプは柑橘系やリンゴの爽やかな香りと、キレのある酸味が特徴で、食前酒や魚介料理との相性が抜群です。

甘口タイプは蜂蜜やアプリコットの豊かなアロマがあり、しっかりとした酸味とのバランスが絶妙で、デザートワインとしても楽しめます。

また、熟成によってペトロール香と呼ばれる特徴的な香りが現れ、より複雑な味わいへと変化していきます。

若いうちは爽やかな果実味を楽しみ、熟成したものではより深い味わいを楽しむなど、様々なスタイルを飲み比べることで、リースリングの多様な魅力を発見できるでしょう。

リースリングのワインを選ぶときは、スタイルに注目してみてはいかがでしょうか。

産地で選ぶ

リースリングのワインを選ぶときに、産地に注目するのも1つの方法です。

ドイツのモーゼルでは、冷涼な気候から生まれる繊細で透明感のある味わい、ラインガウではより完熟した果実味豊かな味わいが特徴です。

アルザスでは太陽をしっかり浴びることで、豊かな果実味と酸のバランスが取れたワインとなり、特にグラン・クリュからは卓越した品質のワインが生まれます。

新世界では、オーストラリアのクレア・ヴァレーでライムを思わせる特徴的な香り、アメリカのワシントン州では爽やかな果実味とミネラル感のバランスが特徴です。

オーストリアのヴァッハウでは、ドナウ川沿いの段々畑で造られる複雑な味わいが特徴的です。

上記のようなそれぞれの産地の個性を飲み比べることで、リースリングの奥深さを楽しむことができるでしょう。

例えば、同じ年のドイツとアルザスのワインを飲み比べたり、同じ産地の異なるスタイルを比較したりするのも、リースリングの魅力を楽しむ良い方法です。

リースリングのワインに合う料理

リースリングは産地やスタイルによって異なる顔を見せる品種であり、様々な料理との相性が抜群です。

辛口から甘口まで幅広いスタイルがあり、それぞれの特徴を活かした料理とのマリアージュを楽しむことができるでしょう。

本章では、リースリングのワインに合う料理を辛口と甘口それぞれ見ていきましょう。

辛口リースリングに合う料理

辛口リースリングは、シャープな酸とミネラル感が特徴で、白身の魚や鶏肉、豚肉との相性が抜群です。

特にアルザス地方の伝統料理であるシュークルート(キャベツの酢漬けと豚肉料理)との組み合わせは定番です。

以下のような料理と組み合わせてみるのをおすすめします。

・魚介料理:カキやホタテなどの生食、白身魚のムニエル
・鶏肉料理:若鶏のロースト、チキンのハーブグリル
・アジア料理:寿司、刺身、天ぷら
・野菜料理:アスパラガスのグリル

また、チーズとの相性も良く、特にフレッシュなヤギのチーズや軽い熟成のグリュイエールなどとの組み合わせがおすすめです。

甘口リースリングに合う料理

甘口リースリングは、豊かな果実味と酸味のバランスが特徴で、スパイシーな料理との相性が良いです。

特にタイ料理やインド料理などのアジア料理と好相性で、甘みと酸味が辛さを和らげ、スパイスの風味を引き立てます。

以下のような料理との相性がおすすめです。

・アジア料理:グリーンカレー、マッサマンカレー、四川料理
・フォアグラ料理:フォアグラのソテー、テリーヌ
・チーズ:ブルーチーズ、熟成チーズ
・デザート:フルーツタルト、レアチーズケーキ

また、貴腐ワインは、デザートとの相性が抜群で、特にフルーツを使ったデザートや、ナッツを使用したお菓子との組み合わせがおすすめです。

酸味があるため、甘いデザートとも相性が良く、後味もすっきりとしています。

まとめ

本記事では、リースリングについて様々な観点から解説してきました。

リースリングは、豊かな酸味と果実味を持つ高貴な白ブドウ品種で、辛口から極甘口まで多彩なスタイルのワインを生み出します。

また、産地によって全く異なる個性を見せるブドウ品種です。

様々な産地の個性を飲み比べることで、リースリングの多様な魅力を発見してください。

同じ年のドイツとアルザスのワインを比較したり、同じ産地の異なるスタイルを楽しんだりするのもおすすめです。

産地やスタイルごとのリースリングの違いを味わうことで、さらにリースリングという品種を楽しむことができるでしょう。