
アルザス|白ワインの銘醸地
フランス北東部に位置するアルザス地方は、ドイツとの国境に接し、領有権が両国間で争われた歴史を持つことから、ドイツの影響も深く受けています。
木組みの家々が立ち並ぶ美しい街並みがまるで絵本の世界のような、独特な魅力を持つワインの産地です。
この地域では、辛口の白ワインを中心に、個性豊かなワインが造られています。
生育期間に長い日照時間に恵まれていることや、西側の山脈によって雨がちな偏西風から守られている環境のため、ブドウの生育に最適です。
リースリングやゲヴュルツトラミネールなどの香り高い品種から生まれる白ワインが多く、その個性と味わいで世界中のワインファンを魅了し続けています。
本記事では、アルザスのワインについて詳しく見ていきましょう。
目次
アルザスワインの特徴と魅力

アルザスワインは、フランスとドイツの文化が交錯する独自の文化を持つワイン産地です。
全体の90%以上を占める白ワインは、品種の個性とテロワールの表現を大切にした醸造が特徴で、食事との相性も抜群です。
本章では、アルザスとそのワインの特徴について探求します。
アルザスの栽培環境
まず初めに、アルザス地方は冷涼な大陸性気候を有しています。
ヴォージュ山脈の東側に位置することから、山並みが雨風を防ぎ、また山を超えた風がフェーン現象を起こすことから、年間降水量が少なく、非常に乾燥した気候です。
アルザスで作られた高品質ワインを示す原産地統制呼称であるアルザスAOCを使用するためには、ワイン法の規定により灌漑をすることができません。
そのため、降水量が極端に少ない年には干ばつが懸念されることもありますが、通常は乾燥が病害を抑制し、健全なブドウを育てます。
北緯48度前後という高緯度に位置し、生育期間に長い日照時間を享受できるこの地方は、ブドウ栽培に理想の地方といえます。
品種の個性を重視した醸造
アルザスのワインは単一品種で造られることが多いのが特徴で、ラベルに品種名が表記されたボトルもよく目にします。
リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカなど、それぞれの品種が持つ個性を最大限に引き出すため、醸造にあたっては、酸化や樽自体の影響を受けずに品種固有の香りや味わいをワインに残すことができる、伝統的なフードルと呼ばれる旧い大樽やステンレススチールタンクがよく利用されています。
また、マスカット、リースリング、シルヴァーナーにはフルーティな特性を活かすために低温度で発酵させます。
糖度が上がりやすく発酵が難しいゲヴュルツトラミネールには中程度の温度で発酵させるなど、温度管理についても、品種の構成を活かした工夫が施されています。
そして、品種個性に重ねて、醸造家によっては、澱との接触によりワインにテクスチャーを与えたり、マロラクティック変換という醸造テクニックにより酸を柔らかくするなどの手法を取るなど、それぞれの生産者の個性も反映されたワインが造られています。
テロワールの表現
アルザスは、ヴォージュ山脈とライン川に挟まれた地域で、場所によって土壌成分が全く異なります。
ブドウ畑は、大まかには、肥沃な平地と水捌けがよく高品質のブドウを生む山側の斜面にわかれて位置しています。
花崗岩、片麻岩、石灰岩、泥灰土など、13種類もの多様な土壌が存在し、「テロワールのモザイク」と呼ばれることもあり、それぞれの個性がワインに反映されているともいわれます。
先述のとおり、アルザスでは単一品種のワインが主流で、かつては、AOC法でもラベルに品種表記を行うのが義務でしたが、1990年代にマルセル・ダイスが「品種主義ではなく、テロワールこそがワインの個性を決定する重要な要素である」と主張したことを契機に、任意表記へと規定が見直されました。
現在では、テロワールを表現するのに有用だと考え、蔵付きの環境酵母によりブドウを発酵させる高品質ワインの生産者も多いです。
食事との相性の良さ
アルザスワインは、豊かな果実味と適度な酸味を持ち、様々な料理と相性が良いのが特徴です。
特にアルザス料理の代表的なシュークルート(ザワークラウトと各種肉料理)やタルトフランベ(アルザス風ピザ)との相性は抜群です。
ゲヴュルツトラミネールはスパイシーな料理やフォアグラに、リースリングは魚介料理や酸味のある料理に、ピノ・グリは白身肉や濃厚なソースの料理に、というように品種ごとの個性を活かした料理とのマリアージュを楽しむことができます。
また、クレマン・ダルザスと呼ばれるスパークリングワインは、前菜からデザートまで幅広く楽しめる万能選手です。
アルザスワインの歴史と発展
アルザスでは、古くはローマ時代からすでにブドウ畑があったと考えられています。
その後、フランスとドイツの文化が交錯する土地の特性を反映し、独自の個性を育んできました。
現代では、伝統と革新のバランスを取りながら、世界的に高い評価を得ています。
本章では、そんなアルザスワインの歴史について紐解いていきましょう。
古代ローマ時代からの歴史
アルザスでのワイン造りは古代ローマ時代には始まっていたとされますが、ワイン産地として花開いたのは、6世紀後半以降に修道院によってブドウ畑の開発が進められるようになってからです。
その後、ドイツのライン川を利用した交易によって発展し、中世には修道院がワイン醸造の中心となっていきました。
ローマ・カトリック協会の持つ情報ネットワークや、当時の知識層であった修道士たちの努力によって、修道院がワイン造りの技術を発展させることとなりました。
フランスとドイツの間での変遷
アルザスは、1648年のウェストファリア条約でフランス領となって以降、1871年の普仏戦争でドイツ領に、1919年に再びフランス領に、1940年に再度ドイツ領に、そして1945年に最終的にフランス領となるという複雑な歴史を歩んできました。
この歴史的背景により、フランスにありながらも、現在でもドイツの影響が色濃く残っています。
たとえば、ドイツと同じようにリースリングやピノ・グリといった品種が多く栽培されていることや、単一品種で造られるワインが多いこと、また、ラベルに品種を記載することやフルート型の細長いボトルを用いているというのは、その特徴を表しているでしょう。
AOC制度の確立と現代の状況
フランスで、原産地統制呼称(AOC)に関するワイン法が制定されたのは1935年のことですが、アルザスAOCがこの地方で正式に認められたのは、第二次世界大戦中のドイツによる併合などを挟み、1962年のことになります。
ブルゴーニュのような他の地域では、地域全体のAOCに加え、地区や村の単位でのAOCが制定されている例をしばしば見ることができますが、この地方では、現在でも、この地域の全域を包括するものとして、アルザスAOCのみが制定されています。
その後、1975年にはグラン・クリュ制度が導入され、さらなる品質向上が図られるようになり、全生産量の4%ほどを占めています。
アルザスでは、現在、約15,000ヘクタールのブドウ畑で、年間約1億3千万本のワインが生産されています。
そのうちの90%以上が白ワインであり、ベルギー、アメリカ、ドイツなどが主要な輸出先です。
近年では、乾燥し、病圧の低い気候を活かし、環境に配慮した有機栽培やビオディナミ農法を実践する生産者も増加しており、持続可能なワイン造りへの取組みも進んでいます。
これからの変化
アルザスでは、近年の地球温暖化により、ブドウの成熟が早まり、糖度が上がるとともに、酸味が減少する傾向が見られ始めています。
また、より辛口のワインを求めるようになっている消費者の好みの変化もあり、生産者は糖度が上がりすぎず酸が十分に残っている段階で収穫する工夫をしています。
また、これまであまり注目されていなかったピノ・ノワールのような黒ブドウ品種の栽培を始めたりと、新たな工夫が始まっています。
アルザスワインの分類
アルザスワインには、3つのAOCと2つの特別なカテゴリーが存在します。
それぞれが厳格な基準のもと、品質の保証された個性豊かなワインを生み出しています。
本章では、アルザスワインの分類について詳しく見ていきましょう。
アルザスAOC
単一品種で醸造されることが多い、アルザスワインの基本となる格付けです。
ヴァンダルザス(アルザスのワイン)AOCと記載することも可能です。
品種名をラベルに表記する場合には、100%が表記された品種でなければなりません。
認められている品種は、リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカ、ピノ・ブラン、シルヴァネール、オーセロワなどです。
複数品種をブレンドする場合は「エデルツヴィッケール」、同じようにブレンドする場合でも、高貴品種と呼ばれるリースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカ、ピノ・ブランを50%以上使用する場合は「ジャンティ」と表記することができます。
2011年以降は、コミューン名(村名)やリュー・ディ(区画)を併せて表記することも認められ、より詳細な産地の特徴を表現できるようになっています。
アルザス・グラン・クリュAOC
1975年に制定された最高格付けで、51の優れたブドウ畑で生産されるワインが認定されています。
原則としてリースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの4品種に限定され、収穫量の制限や熟度にも一般AOCより厳しい基準が設けられています。
生産量は全体の4%ほどで、より凝縮感のある味わいのワインとなっています。
クレマン・ダルザスAOC
発泡性ワインのために1976年に制定されたカテゴリーで、生産範囲はアルザスAOCと同一です。
クレマン・ダルザスには、ピノ・ブランのほか、オーセロワ、シャルドネ、リースリング、ピノ・グリ、ピノ・ノワールが使用されます。
クレマン・ダルザスは、シャルドネの使用が許可されている唯一のアルザスのAOCカテゴリーでもあります。
ワインは瓶内二次発酵による伝統的製法により造られ、瓶内熟成期間は最低9か月です。
世界的な発泡性ワインの人気の高まりとともに、急激に生産が伸びているカテゴリーでもあり、近年ではクレマン・ダルザス・エモーションという上級カテゴリーが開始していることも注目されます。
特別なカテゴリー
その他にも、アルザスAOCとアルザス・グラン・クリュAOC向けの特別なカテゴリーとして、ヴァンダンジュ・タルディヴやセレクション・ド・グラン・ノーブルがあります。
ヴァンダンジュ・タルディヴは「遅摘み」を意味し、収穫時期を遅らせて糖度を上げた過熟ブドウから造られます。
セレクション・ド・グラン・ノーブルは、ヴァンダンジュ・タルディブよりさらに糖度の高い貴腐菌がついた果実を使用した甘口ワインです。
いずれも使用可能品種は、 リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの4品種のみが認められています。
収穫時の最低糖度や熟成期間などに厳しい制約があり、極めて生産量の少ないカテゴリーです。
アルザスワインのボトルの特徴
アルザスワインは、フルートボトルと呼ばれる特徴的な細長いボトルを使用することが法律で定められています。
高さ約32-33cmと一般的なワインボトルより背が高く、直径73mmとスリムな形状が特徴です。
これはボルドー型の「いかり肩」(肩部分が張り出した形状)やブルゴーニュ型の「なで肩」(肩部分がなだらかな形状)とは全く異なります。
この形状は、ドイツのライン・モーゼル地方のワインボトルの影響を受けており、アルザス地方がかつてドイツ領だった歴史を反映しています。
フルートボトルは冷やして飲む白ワインに適しており、細長い形状のため冷蔵庫での保管や急速な冷却が容易です。
また、ボトルの色は通常、緑や茶色が使用され、紫外線からワインを保護します。
アルザスの代表的なブドウ品種

これまでの章で触れてきたようにアルザスには、個性豊かな品種が粒揃いです。
生産量の90%以上が白ワインですが、近年は赤ワインの品質も向上しており、さらなる発展を遂げています。
本章では、アルザスのワイン造りに使用される代表的な品種を見ていきましょう。
リースリング
発泡性ワインにも多く使用されているピノ・ブランを除くと、アルザスで最も多く栽培されている品種です。
アルザスでは、ミディアムボディからフルボディ、中程度のアルコールで高い酸味を持ち、レモンやグレープフルーツなど柑橘類や桃の風味、そして石や鋼のような特徴を持つ辛口ワインが典型的なスタイルです。
【おすすめワイン】ファミーユ・ヒューゲル リースリング クラシック
370年以上の歴史を持つ生産者による、エレガントな辛口白ワインです。
ゲヴュルツトラミネール
バラやライチ、桃、アプリコットの華やかな香りが特徴的な品種です。
また、ゲヴュルツとはドイツ語で「スパイス」を意味する名前のとおり、スパイシーなニュアンスもあり、コクのあるテクスチャーの個性的な味わいを持ち、ミディアムからフルボディ、低めから中程度の酸味を持ちます。
アルザスでは、辛口から極甘口まで様々なスタイルのワインが造られています。
【おすすめワイン】マルク・テンペ ゲヴュルツトラミネール ツェレンベルグ
マルク・テンペが手掛けるゲヴュルツトラミネールで、粘土石灰土壌のツェレンベルグ村で造られます。完熟したトロピカルフルーツの香りが特徴で、果実味と甘さのバランスが良く、上品な酸味を持つエレガントなワインです。
ピノ・グリ
ピノ・ノワールの突然変異から生まれた品種です。
「グリ」とはグレーを意味し、グレーがかったピンク色の果皮にちなんで名付けられました。
早摘みしない場合には、糖度が高くなることから、アルコール度数が高めになります。
アルザスでは、辛口から甘口まで幅広いスタイルが造られており、フルボディで中程度の酸味を持ち、桃やリンゴの香りのするオイリーなテクスチャのワインとなります。
【おすすめワイン】アーサー・メッツ ピノ・グリ
100年以上の歴史を持つ名門ワイナリーの逸品で、残糖を感じさせつつ、酸味とのバランスが取れた端正な辛口ワインです。
ミュスカ
ミュスカ種と呼ばれるブドウはいくつもありますが、アルザスでは、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランとミュスカ・オットネルの2つが使用されます。
バラなどの華やかな花の香りとブドウの果実感を持つ香り高い品種で、ボディと酸味は軽くなるものが多いです。
【おすすめワイン】トリンバック ミュスカ・レゼルヴ
1626年創業の名門ワイナリーが手掛ける辛口ワインで、ミュスカの特徴をよく楽しむことができます。
ピノ・ブラン
アルザスでは、交配種であるオーセロアと併せてピノ・ブランと呼ばれます。
リンゴや桃の繊細な香りを持ち、伝統的製法の発泡性ワインのブドウとしても重要な品種です。
非発泡性ワインでは、まろやかな酸味で、食事との相性が良いものとなります。
【おすすめワイン】クラインクネヒト アンポスチュール
酸化防止剤無添加にこだわるアルザスのビオディナミストが造る、ピュアで上質感のある白ワインです。
ピノ・ノワール
アルザスのAOCで唯一認められている黒ブドウ品種です。
旧来は薄くて痩せたスタイルも多くありましたが、近年の温暖化やブルゴーニュなどからの技術導入により品質が向上している注目の品種です。
2022年にはグラン・クリュへの認定も実現し、さらなる評価の向上が期待されています。
【おすすめワイン】ジュリアン・クライン ハーネンベルグ ピノ・ノワール
ビオロジック農法で造られる上質なワインで、熟した果実味とタンニンのバランスが絶妙です。
シルヴァネール
かつては最も多く栽培されていた品種ですが、現在は減少傾向にあります。
もっとも、今でも残っているブドウ樹は古木が多いため、少量ながらも高品質なワインを造り出しています。
【おすすめワイン】トリンバック シルヴァネール ヴァインバウム
アルザスの名門ワイナリーが手掛ける伝統的なワインです。リボーヴィレのヴァインバウム地区にある古いブドウの木から造られています。
まとめ
フランス北東部に位置するアルザスは、白ワインの銘醸地として知られ、全体の90%以上が白ワインの生産を占めています。
リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカなどの高貴品種から造られる個性豊かなワインは、それぞれ異なる魅力を持っています。
リースリングの爽やかな酸とミネラル感、ゲヴュルツトラミネールのスパイシーでアロマティックな香り、ピノ・グリのまろやかでコクのある味わい、ミュスカの華やかな果実味など、品種ごとの特徴を飲み比べることで、アルザスワインの多様な魅力を発見できるでしょう。
また、辛口から甘口まで、さらにはクレマン・ダルザスというスパークリングワインまで、様々なスタイルのワインを楽しむことができます。
食事との相性も抜群で、アルザスワインの世界を探検する旅に出かけてみてはいかがでしょうか。