ワインの世界では、品質と体験が全てです。伝統的なワインの消費体験を変革し、より多くの人々に高級ワインを楽しんでもらうために、ワインを大きなボトルから小瓶へ、品質を保持したまま詰め替える技術の開発が求められていました。しかし、この技術を実現することは決して簡単なことではありません。品質を維持することはもちろん、衛生面や法律の制約もクリアしなければならない課題が山積していました。
興野悠太郎さんは、この課題を解決するための独自のアプローチを採用しました。ワインのデリケートな性質を十分に理解し、その品質を保持しながら小瓶への詰め替えを可能にしたのです。今回の記事では、興野さんが直面した最も難しかった課題と、それをどのように克服したのかについて詳しく語っていただきました。
RESEARCH & DEVELOPMENT
全自動化で実現する高級ワインの普及。
ホームワインが3年かけて開発した、ワイン愛好家の夢を叶える
ワインの新鮮さを長持ちさせる革新的ソリューション。
細部へのこだわりが守る、高級ワインの繊細な味
2024年4月30日
最も難しかった課題と、それを克服するためにどのようにしたのかを教えてください。
装置開発段階から、ワインの詰め替えをするときに、ワインへのストレスを最小限に抑えることに気を使いました。なぜ、ワインが時代や世代をこえ、世界中で人の心をつかむかというと、デリケートで、繊細な飲み物だからです。だから、光や振動、酸素にも弱い。
振動することによってさえ、酸化が促進してしまいます。こうした刺激を極力排除し、最高のワインとは何かを考えました。単にワインを小分けにする機械ではなく、最高のワインの経験を提供するための機械にしたいと思ったのです。
そのためには、自分がワインの液体である状態をまずイメージしました。人に飲まれるなかで、どういう人生をおくったら最高に幸せな状態でいられるのだろうか、と。酸素にはいじめられてしまうので、出会いたくない。デリケートな液体が、アルゴンが満たされた経路で、酸素に遭遇することもなく、滑り台をすべるかのように滑らかに小瓶に移動する……。
波乱万丈でストレスが多かったら、ワイン生産者が届けたかった味とはかけ離れてしまう。ワインボトルから小瓶に詰め替える過程においては、最高の、至れりつくされなサービスを提供するようなものを作りたかったのです。このようなイメージをもち、機械の設計を開始しました。
なかなかユニークですね。このような機械の設計方法は一般的なのですか?
私はいつも、最終系のイメージから逆算して、機械設計をしています。しかし、一般的には機械設計エンジニアはコストや、仕様などを真っ先に考えたうえで、機械の設計を行います。これは、一見合理的に見えますが、例えばホームワインのお客様からすると「最高のワインを飲む」ことが目的であって、コストも仕様も関係ないですよね。
モノづくりにおいては、しばしばこのようなギャップが発生します。私はこれをなくしたかったのです。とはいえ、予算も当然無視はできません。予算内に収まるように、3Dプリンターなどを効果的に使用し、コストダウンをしました。厚生労働省の食品器具・容器包装のポジティブリスト制度にも掲載されている、安心なプラスチックを利用するなど、素材にも安全性を徹底させました。
私自身、ワインが大好きなので、自分がこの機械でボトルから詰め替えた小瓶で本当にワインを楽しむことができるかどうか検証しつつ、ソムリエの佐々木さんとも何度も議論しながら作っています。
ほかに苦労したポイントはありますか?
食品機械ならではの法律や商品設計ですね。技術や見た目を優先させる以前に、お客様の口に入れるものをつくる機械なので、衛生面は最優先です。装置設計が完璧でも、現場のスタッフの扱いが原因でなにかエラーがおきてはいけない。そのためには、誰もが簡単で取り扱いやすいものに設計する必要がありました。
例えば、「HACCP」をとりいれた機械設計を重視しました。HACCPは、食品を扱う企業が自分たちで食中毒を引き起こす菌や異物の混入などの問題点(ハザード)を見つけ出し、食材が届くところから製品が店に出るまでのすべての段階で、これらの問題をなくすか減らすために、特に大切な工程をしっかり管理して、食品の安全を保つための方法です。
この方法は、国連の食糧と農業に関する組織(FAO)と世界保健機関(WHO)が一緒に作った食品の基準を決める組織であるコーデックス委員会によって提案されたもので、世界的に認められており、各国がこれを取り入れることを推奨されています。
自由に機械を作るというのは私が大切にしていることではありますが、不特定多数の人が口にするという食品機械なので、両方のアプローチがないと真の意味でのよい機械を作ることはできません。このバランスの調整が大変でした。
今後の発展についておしえてください。
装置内部に温度、加速度、電力を計測する様々なセンサーを仕込みました。このデータを時系列解析することで、装置の故障予測や故障した際に自己修理機能を活性化させ、故障予防だけでなく、故障発生時のダウンタイム低減を追求していきたいと思っています。
また、それぞれのワインボトルでは、瓶の中の酸素濃度が異なっています。これが瓶内熟成やビンテージを決定する要素の一つなのですが、現状では約半年間という機械開発の機関もあったため、赤ワインと白ワインを区別した程度のデータしか取れていません。今後、更にデータを詳しく取得することで、より厳密に酸素割合をコントロールし、データや情報を収集・分析しながら、更なるワインの品質の向上をしていきたいです。
VINOMATIC 開発者
興野 悠太郎(きょうの・ゆうたろう)
慶應大学在学中、抗がん剤などに利用される分子標的薬を設計するバイオベンチャーを創業。創薬の現場にて完全自動機械の重要性を痛感したためロボティクスを独学で学び、ゼロから何でも作れるラボを目指したKyopalab合同会社を設立。TEDxHanedaにて登壇 ほか受賞多数
慶應大学在学中、抗がん剤などに利用される分子標的薬を設計するバイオベンチャーを創業。創薬の現場にて完全自動機械の重要性を痛感したためロボティクスを独学で学び、ゼロから何でも作れるラボを目指したKyopalab合同会社を設立。
TEDxHanedaにて登壇 ほか受賞多数
エディター
雨宮 百子(あめみや・ももこ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、Forbes JAPAN編集部でエディター・アシスタントを経て、日本経済新聞社に入社。記者として就活やベンチャーを取材する。その後、日本経済新聞出版社(現・日経BP)に書籍編集者として出向、60冊以上のビジネス書を作る。担当した『日経文庫 SDGs入門』『お父さんが教える13歳からの金融入門』は10万部を超える。就業中に名古屋商科大学院で経営学修士(MBA)を取得。2022年8月に退職・独立し、ベルギーに。現在はルーヴァン経営学院の上級修士課程で欧州ビジネス・経済政策を学ぶ。ヤングダボス会議とも呼ばれるOne young world 2022の日本代表、現在はアンバサダー。メディアへの執筆のほか、編集業務や海外企業の日本進出支援も行っている。
早稲田大学政治経済学部卒業後、Forbes JAPAN編集部でエディター・アシスタントを経て、日本経済新聞社に入社。記者として就活やベンチャーを取材する。その後、日本経済新聞出版社(現・日経BP)に書籍編集者として出向、60冊以上のビジネス書を作る。担当した『日経文庫 SDGs入門』『お父さんが教える13歳からの金融入門』は10万部を超える。就業中に名古屋商科大学院で経営学修士(MBA)を取得。2022年8月に退職・独立し、ベルギーに。現在はルーヴァン経営学院の上級修士課程で欧州ビジネス・経済政策を学ぶ。ヤングダボス会議とも呼ばれるOne young world 2022の日本代表、現在はアンバサダー。メディアへの執筆のほか、編集業務や海外企業の日本進出支援も行っている。
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